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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1626号 判決 1977年3月23日

主文

一  原判決中控訴人関係部分を次のとおり変更する。

1  原判決添附第二物件目録(三)から(七)まで及び(十六)記載の各土地が被控訴人らの所有であることを確認する。

2  控訴人は被控訴人らに対して前項の各土地につき真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をし、かつ、右の各土地を引き渡せ。

3  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  控訴につき訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人ら、その余を控訴人の負担とし、附帯控訴につき控訴費用は附帯控訴人(被控訴人)らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人らの控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)ら代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決中附帯控訴人ら敗訴の部分を取り消す。原判決添附第二物件目録(八)から(十五)まで記載の各土地が附帯控訴人らの所有であることを確認する。附帯被控訴人は附帯控訴人らに対して前項の各土地につき真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をし、かつ、右の各土地を引き渡せ。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決並びに右引渡を求める部分につき仮執行の宣言を求め、附帯被控訴代理人は附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の陳述)

訴外藤原幸二は、昭和三六年七月一日に国から原判決添附第二目録(一)及び(二)の土地の売渡しを受け、所有の意思をもつて善意無過失でその占有を開始し、それ以来平穏かつ公然に占有を継続し、昭和四四年一二月二四日に善意無過失の控訴人に右土地を売り渡した。控訴人は、同訴外人から右売渡しを受け、所有の意思をもつて平穏かつ公然に右土地の占有を継続してきたものであるから、同訴外人の占有開始時から一〇年後である昭和四六年七月一日の経過によつて右土地を時効によつて取得した。よつて、右時効取得を援用する(時効取得の抗弁についての予備的主張)。

(被控訴人ら代理人の陳述)

控訴人の時効の援用が信義則に反し、権利の乱用として許されないものであることは、すでに主張したとおりであるが、さらに控訴人の右予備的主張についてみるに、控訴人の右占有の取得は、控訴人の代表者である北海道知事の本件買収処分が重大かつ明白な瑕疵によるものであるから悪意と評価されるべき有過失によるものであるので、訴外藤原幸二が善意無過失であつたとしても、一〇年の取得時効は到底認められるものではなく、控訴人の右主張は失当である。

(証拠関係省略)

理由

当裁判所は、被控訴人らの控訴人に対する請求は、原判決添附第二目録(一)から(十六)までの土地のうち、(三)から(七)まで及び(十六)の土地に関する部分を正当として認容し、その余の土地に関する部分を失当として棄却すべきものと認めるものであるが、その理由は、左に附加訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する(ただし、「阿部努」「鳥羽健市」とあるのは、「阿部務」「鳥羽建市」とそれぞれ訂正する。)。

原判決二七枚日裏一行目の次に左のとおり附加する。

3 そこで、控訴人の時効取得の抗弁についての予備的主張につき判断するに、原判決添附第二物件目録(一)及び(二)の土地二筆(以下「本件二筆の土地」という。)について、国が農地法四四条の規定にもとづいて買収期日を昭和二九年七月一日とする未懇地買収手続を進め、同法五〇条三項の規定により買収令書の交付に代える公告を経たものとして、同年六月三〇日にその買収対価を供託したことは右引用に係る原判決の認定のとおりであり、当時本件二筆の土地が買収未懇地として国の占有するところであつたことも弁論の全趣旨によつて明らかである。ところで、前顕乙第一四号証、第一六号証、第一八号証、第二二号証、第二三号証、原審証人高崎欣一の証言によれば、本件二筆の土地については、訴外高崎欣一がこれを開発して農地とすべく農地法六一条の規定にもとづいて売渡期日を昭和三三年一一月一日とする買収未懇地の売渡を受けたが、昭和三六年三月にいたつて国が右売渡の目的にそわずとみて同法七二条の規定による再買収をおこない、あらためて訴外藤原幸二に対して同法六一条の規定により売渡期日を同年七月一日とする売渡をしたところ、同訴外人がこれを開発して農地(田)としながら昭和四四年一二月二四日に控訴人に転売し、いらい控訴人がその所有農地であるとしていることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。そして、農地法四四条の規定にもとづく本件二筆の土地の買収については買収令書の交付に代える公告をなすべき要件を欠くにもかかわらず、公告をもつて令書の交付に代えた瑕疵によりその買収処分を無効と解するほかないことを、訴外藤原幸二及び控訴人がそれぞれ本件二筆の土地の右占有取得時に知つていたこと、及びそれを知らなかつたことにつき過失があつたことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、特段の事情のないかぎり、本件二筆の土地は、訴外藤原幸二が昭和三六年七月一日以降、ついで控訴人が昭和四四年一二月二四日以降、いずれも所有の意思をもつて平穏かつ公然にこれを占有し、しかもその占有の開始にあたつて善意無過失であつたものと解すべきであるから、控訴人は昭和四六年七月一日をもつて一〇年の取得時効により右土地二筆の所有権を取得したものとして右取得時効を援用しうるというべきであるから、控訴人の右予備的主張は理由がある。

被控訴人らは右取得時効の援用は許されないものであると主張するので考察するに、控訴人における本件二筆の土地の占有は地方公共団体たる控訴人のいわゆる固有事務に属することがさきの認定事実により明らかであるが、これに対し、農地法四四条の規定にもとづく本件二筆の土地の買収処分を国の機関委任事務として北海道知事が処理したことは当事者間に争いがないから、右買収処分による本件二筆の土地の占有は、国を権利主体とするものであつて、北海道知事が国の右買収機関であつたからといつて、北海道知事をその長とする地方公共団体たる控訴人が権利主体たりうるものではありえないし、本件二筆の土地の農地法四四条の規定にもとづく買収処分が買収令書の交付を欠き無効と解すべきものであることの瑕疵はその買収及び昭和三六年三月における右再買収(同年七月藤原幸二に売り渡すまで所有)による国の占有をして瑕疵あらしめるものであるとしても、控訴人の昭和四四年一二月における本件二筆の土地の買受けによる占有の取得とは関係がなく、その取得が善意無過失であることは前認定のとおりであり、これをくつがえして右買収処分の瑕疵にもとづいて控訴人の右占有取得が瑕疵を帯びるにいたつたことを肯認するに足りる証拠はみあたらない。そして控訴人の右時効援用をもつて信義則に悖り、権利濫用にあたるものと目すべき事情もみあたらない。被控訴人の右主張は採用しがたい。

原判決二八枚目裏三行目「(一)ないし(七)、(十六)」とあるのは、「(三)から(七)まで及び(十六)」と、同七行目「(八)ないし(十五)」とあるのは、「(一)、(二)及び(八)から(十五)まで」と訂正する。

よつて、本件控訴は一部理由があるから、右と異なる原判決を右に説示した限度に変更すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用し、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却すべく、附帯控訴費用につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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